すわほうじん150号
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スィーツオアシスにようこそ〈菓子歳時記〉その15思い出と リンクする菓子法人会会員「岡谷精良軒」 原昭徳先日喫茶店で、おなじみさんと話しているときのことだった。たまたまマスターが買ってきた駄菓子いくつかがカウンターに置いてあり、どうぞどうぞといわれて手にとったのが、小袋に入ったラムネ菓子。丸太にこしかけた、大きな瞳の愛らしいうさぎとりすのイラストが描かれている。おっ懐かしいと僕がいう前に、ああこ      れは、と話し出したのはとなりのおなじみさんだった。幼少の頃に、お正月など親戚が集まると、大小お菓子が当たるくじ引き大会が始まって、このうさぎりすラムネがよく登場したとのことだった。そういえば、こんなこともあった。数年前、地元の先輩との宴会でのことだ。赤い顔をした先輩の友人は、僕がお菓子屋だと分かるとこう話しはじめた。「今食べられるなら一万円だしてもいい。あのときのだんご。子供の頃住んでいた町のだんごの味が、忘れられない」見た目など、どんな感じだったのかきくと、どうもみたらしだんごのよう。近隣の町でのことだが、もうその品は存在しないという。そこまで分かったが、それ以上のことはお酒の力もあってかはっきりしなかった。一万円。どうしても食べたいという気持ちは、すごく伝わってきた。これには、勝てないなあと思ったのだった。日々研鑽して、新しいものを考えたり、今ある製品でも、なにかもう少し工夫できないかと努力を惜しまない。もちろん、めずらしい原材料や製法はアピール力があるが、思い出とのリンクの一品は、おそらく最強かつ最高だと思う。これは一夕一丁では難しいし、意図的につくれるものでもない。やはり毎日の小さな気づかいの積み重ねが、多くのみなさまの日常と結びついて、いつしか思い出の一コマに登場となるのでは。やっぱり一日一日を精進ということかなと思った。「今年のかりん(マルメロ)。うっすらと綿毛が付いている。今季は例年にない不作とのこと、貴重品だ」

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